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コラム

“北海道発”再エネシフトで描く、持続可能なものづくりと地域の未来図

脱炭素社会への移行が、世界中で加速しています。再生可能エネルギー導入の動きは、ここ北海道でも。2025年10月、水晶デバイス製造の函館エヌ・デー・ケー株式会社は、自社敷地内に太陽光発電設備を導入しました。今回、その小浦一也社長をゲストに迎え、設置を手がけた株式会社エネコープの五十里浩輔社長とともに、再エネが拓く“北海道のものづくりの未来”を語ります。

対談者

函館エヌ・デー・ケー株式会社 代表取締役社長 小浦一也氏

株式会社エネコープ 代表取締役社長 五十里浩輔氏

製品も環境への取り組みも、最先端でありたい。

司会        さっそくですが、小浦さん。太陽光発電設備を導入された経緯について教えてください。

小浦        私たち函館エヌ・デー・ケー株式会社は、日本電波工業株式会社(NDK)グループの国内生産拠点の一つとして、水晶振動子や水晶発振器といった「水晶デバイス」を製造しています。あまり馴染みのない言葉かもしれませんが、実はスマートフォン、車載機器、産業機器、家電製品にも水晶デバイスは使われています。NDKは自動車用水晶デバイスメーカーとしては業界で長い歴史を持ち自動車市場では高い市場シェアを維持しています。国内だけでなく、海外でも広く使っていただいております。また、水晶デバイスは非常に小さく繊細なため、生産には高度なオートメーション装置を数多く使用しています。加熱用の装置もあり、電力を相当量必要とします。そうしたことから、当社は函館市内でも上位に入る電力使用量となっています。

司会        年間では、どれくらいの電力を使われているのでしょうか。

小浦        約4,000万kWhです。一般家庭に換算すると、およそ1万世帯分にあたります。そして先ほども触れましたが、当社のお客さまは国内外にいらっしゃいます。特に欧州の企業からは、エネルギー調達について「よりクリーンな電力を使ってほしい」という要望が強くあります。要望というよりも、それが購入条件になることもあります。

司会        お客さまから高い環境基準が求められているわけですね。

小浦        はい。また、函館エヌ・デー・ケーは、NDKグループの中でも最も小型の製品、いわば先端領域の水晶デバイスを製造する工場です。最先端の工場である以上、設備そのものも効率的で生産性が高い”スマートファクトリー”であるべきだと考え、2030年のカーボンニュートラル達成を掲げています。

司会        NDKグループ全体では2050年を目標としています。そこから20年前倒しのチャレンジということですね。

小浦        製品も、技術も、そして環境への取り組みも、グループの先頭を走りたい——。今回、太陽光発電設備を設置した背景には、その思いが根底にあります。

スマートフォン、車載機器、産業機器、家電製品などに使用される水晶デバイス

データに基づく提案に納得感がありました。

五十里    最先端の技術と強い環境意識を持つ企業さまとご一緒できることを、たいへん光栄に思います。少しエネコープについて紹介させてください。株式会社エネコープは、生活協同組合コープさっぽろのエネルギー部門を担う関連会社として、2001年に設立されました(当時は株式会社シーエックスエナジー)。コープさっぽろの組合員さんへ灯油やLPガスを安定的に届けることを主な役割とし、「エネルギーで北海道の”生きる”を支え、暮らしを豊かにする」をパーパスに掲げています。化石燃料である灯油やLPガスをお届けする一方で、環境にやさしいエネルギーを供給したいという思いから、これまでバイオマス発電やメガソーラーにも取り組んできました。私たちとしては、地産地消のエネルギー供給を通して企業の皆さまの困りごとに寄り添いながら、「北海道の”生きる”を支え、暮らしを豊かにする」ことに挑戦したいと考えております。

小浦        素晴らしいですね。私たちは2000年にISO14001を取得して以来、化石燃料をいかに減らすか、脱炭素社会にどう貢献できるかをテーマに事業を進めてきました。そうした経緯もあり「いつかは自社で太陽光発電を導入したい」という思いが数年前からありました。できるだけ地元で、こうした取り組みを進めている企業にお願いしたいと考えていたところ、エネコープさんとのご縁につながったのです。

五十里    ありがとうございます。その意味では、タイミングがよかったのかもしれません。御社が太陽光発電に関心を持たれた時期と、私たちが太陽光発電事業に本腰を入れ始めた時期がちょうど重なった。お互いに波長が合ったのかなと思います。

司会        タイミングのよさもあったかと思いますが、自社で発電するとなると大きなプロジェクトです。エネコープに任せたい、と決断した決定的な要因は何だったのでしょうか。

小浦        具体的に打合せを進める中で、科学的なデータに基づいたご提案をいただけたことが大きかったと思います。例えば、北海道の過去数年分の日照時間データをもとに、月ごとの発電量、年間の発電量を予測して示してくださいました。北海道ですから、冬場はどうしても落ち込みますが、それでも十分に採算が取れることを、データできちんと裏づけてくれました。また、積雪への対策も、ノウハウが蓄積されていて、提案内容に非常に納得感がありました。そして何より、新しい分野にしっかり踏み込んでおられる、その姿勢に強く共感しました。


北海道の暮らしを支えるエネルギーの役割について話す 株式会社エネコープ 代表取締役社長 五十里浩輔氏

初期費用ゼロで導入できたのはありがたかった。

司会        導入に際しての費用感についても教えてください。

五十里    私から説明します。今回はPPA(Power Purchase Agreement)方式で採用いただきました。簡単に言えば、「初期費用0円で太陽光発電システムを導入できる仕組み」です。函館エヌ・デー・ケーさまの敷地を活用し、そこで発電した電気を固定価格で買い取っていただきます。20年間ご使用いただくという契約で、太陽光発電設備の設置費用やメンテナンス費用は、すべて私たちが負担します。

小浦        初期費用を抑えられるのは、本当に大きなメリットでした。

司会        太陽光パネルを設置した場所は、もともと何かに使っていたのですか。

小浦        将来の工場増設に備えて確保していたスペースです。ただ、生産設備等の改善で高効率化を進める方針に切り替えたことで、土地を確保する必要がなくなりました。ですから結果として、遊休地の有効活用につながっています。

司会        稼働開始から1カ月ほど経ちますが、いかがでしょうか。

小浦        建築段階から、ご来社いただくお客さまに「何を建てているんですか?」と聞かれるほどでした。太陽光発電の取り組みを説明すると、多くの方が強い興味を示してくださいます。使用電力を100%自家発電でまかなうことは難しいのですが、工場のすぐ横にパネルが並んでいるので、視覚的なインパクトは大きいですね。今後、海外のお客さまが来られたとき、どんな反応をされるのか楽しみにしています。

五十里    数字的なところもお伝えすると、今回設置した太陽光発電設備の最大出力は1,472kWです。冬は日照時間と積雪の影響で出力が3割弱落ちますが、年間の推定発電量は1,422,445kWh、CO2削減量は761t-CO2、電気代は560万円の削減を見込んでいます。自社の所有地を活用してオンサイトで発電されている例としては、北海道でも最大級です。マーケットに与える影響は、非常に大きいと思います。

海外の取引先にも分かりやすく伝わるのが魅力と話す 函館エヌ・デー・ケー株式会社 代表取締役社長 小浦一也氏

再エネシフトのチャレンジは、未来への橋渡し。

司会        これからの計画や展望について聞かせてください。

小浦        まずは太陽光発電設備が立ち上がりましたので、発電実績を含めてしっかり見ていきたいと思います。ただ、今回の設備設置がゴールだとは考えていません。工場は24時間稼働していますから、夜間の電力をどう確保するかが次のテーマになるでしょう。蓄電も選択肢ですが、コストはどうか。ほかに方法はあるのか。エネコープさんの新たなご提案に期待しています。

五十里    承知しました。おっしゃる通り、太陽光発電は夜間の電力確保が課題です。蓄電や新技術の活用など、協力会社と連携しながら、経済合理性のあるご提案をしていきたいと思います。

小浦        心強いですね。函館エヌ・デー・ケーはグループ内でも最先端を走っているという自負があります。ですから今後も、多少“前のめり”なくらいの気持ちで、新技術やこれまでにない発想を取り入れ、エネルギー供給の取り組みを進めていきたいと思っています。

五十里    ぜひ力にならせてください。北海道でも今後、「自分たちの会社でつくったエネルギーを自分たちで使う」取り組みは広がるはずです。道内では御社のように大規模に進めている例はまだ多くありませんが、今回の導入事例や、これからの取り組みを横展開しながら、地産地消のエネルギーを通じて北海道経済と地球環境に貢献したいと考えています。

小浦        持続可能なエネルギーを生み出す挑戦は、私たちの世代だけで完結するものではなく、50年後、100年後も続くテーマでしょう。今回の太陽光発電事業は、その未来への“橋渡し”になるはずです。

五十里    “未来への橋渡し”、本当にその通りですね。今後ともよろしくお願いいたします。

司会        本日はお忙しい中、ありがとうございました。

函館NDKの太陽光発電設備