SPECIAL もっとわかる、エネルギーのこと

幸福度世界2位のデンマークに学ぶ しあわせのつくりかた。

#トドック電力 ニールセン北村朋子さん

デンマーク・ロラン島在住のアドバイザー・ジャーナリスト。01年、ロラン島への移住を機に環境エネルギー問題や持続可能な社会への関心が芽生え、取材活動を開始。日本のメディアや企業、行政機関のための取材、視察コーディネートなど幅広く手がける。

世界幸福度調査2位 (日本62位) 、SDGs達成度ランキング2位 (同17位)の国、 デンマーク。
私たちは北欧のこの小さな国についてどれくらい知っているでしょうか。アンデルセン、 レゴ、 それから…!?
デンマーク ・ロラン島在住で、長きにわたり日本との架け橋を担ってきたニールセン北村朋子さんに
「しあわせの国」デンマークについて伺いました。

約20年間に及ぶデンマーク生活の中では、日本との違いをさまざまな場面で感じてきたと思いますが。

 そうですね。第一に高福祉高負担社会である点です。「ゆりかごから墓場まで」の言葉通り、デンマークでは生まれてから亡くなるまで基本的に国が面倒をみてくれます。医療費、出産費、高齢者サービス、学費も大学まで無料です。その代わり国民は高額の税金を納めます。だから政治への関心も高く、国政選挙の投票率は毎回85%以上になります。50%前後の日本とはずいぶん開きがありますね。働き方も大きく異なります。労働時間は週37時間に決められ、残業なし。年次有給休暇は最低5週間です。その一方で一人当たりGDP(国内総生産)は日本の1.5倍。世界競争力ランキング2位、日本は34位です。調査項目の中で特に違うのは「ビジネス効率」です。効率よく働き、しっかり休む。デンマークの人たちはしあわせと経済は反比例しないと考えています。日本では今も「拡大成長し続けるのが資本主義」と信じられていますが、既にデンマークは右肩上がりの経済に重点を置いていません。最優先は「地球が存続すること。」それがあっての自国経済だと考え方をアップデートしています。

コペンハーゲンの高齢者福祉施設

制度だけではなく、国民の考え方にも大きな違いがあるんですね。

 はい。根本にあるのが民主主義に対する理解だと思います。デンマークでは民主主義が生活の中に取り込まれていて、彼らは民主主義という言葉を日常的に使います。たとえばパーティーでゲームのルールを決めるときにも「民主主義でいこうぜ」って。ところが日本でそんなことを言えば、「どうしたの?」となる。その違いがどこからくるのかというと、私は教育にあると考えています。デンマークでは物心ついたときから民主主義を学びます。幼稚園で遊ぶときも子どもたち自身がどう遊ぶのかを決めます。一人ひとりやりたいことが違うし、やり方も違う。いろんな子がいますが、先生はできるだけ口出しせずに状況を見守り、子どもたち同士で決めさせます。そうした経験を通して、世の中には違う考え方の人がいるとか、自分の意見がいつも通るわけではないことを知ります。こうした指導は小学校から大学まで一貫しています。

 デンマークの民主主義を語る上で欠かせないのが、「人生の学校」フォルケホイスコーレの存在です(デンマーク発祥の生涯学習のための学校。全寮制で、半年や1年間、自分の学びたいテーマを選択して学習する)。フォルケホイスコーレの誕生は1844年。「近代デンマーク精神の父」グルントヴィは、絶対王政の終焉と民主化時代の幕開けを見越し、農家を含む国民全員が民主主義を理解する必要があると考えてフォルケホイスコーレを創設しました。現在約70校ありますが、アートやスポーツ、政治など、取り扱うテーマは本当にさまざま。民主主義の啓蒙、これさえ押さえていれば、テーマは自由です。授業はディスカッション主体で、試験も成績もありません。生徒は学費の一部を負担しますが、国からの助成金が受けられます。国はお金を出しても口は出しません。

 じつは私も仲間とともにフォルケホイスコーレのインターナショナル版をロラン島に開校する準備を進めています。私たちのテーマは「食」。食は生きている限り誰もが関わることでありながら、さまざまな問題を抱えています。飽食やフードロスが叫ばれる一方で世界には飢餓に苦しむ地域がある。気候変動が進めば今まで農地だった場所が使えなくなり、気候変動難民というべき人が増える可能性もあります。環境破壊や労働搾取の問題など、食という切り口から正解のさまざまな課題が見えてきます。こうした幅広い諸問題を、ディスカッションや実験を通して学び、考えていきたいと思っています。 

園児の食育活動に猟師さんも協力

最後に、北海道へのメッセージをお願いします。  

私は北海道こそフォルケホイスコーレにぴったりの場所だと思っています。フォルケホイスコーレはデンマークでも都市から離れた場所にあります。日常を離れ、自分や自分を取り巻く環境について探求するわけです。その点、自然豊かで人間が人間らしく生きられる北海道こそ、その適地でしょう。実際、今、東川町でフォルケホイスコーレを立ち上げようと、二人の女性が会社を起こし、準備を進めています。私も関係者をつなぐといったお手伝いをしていますが、この活動にすごく期待しています。

 それから民主主義という点で、興味深いデータを1つご紹介します。道知事選の投票率を調べたところ昭和58年までは85%近い数字をキープしていたことが分かりました。これは東京都知事選とは明らかに違います。ところがその後一気に下がり、現在は60%を割り込んでいる。どうしてあるときから下がったのでしょうか。私もまだ調べ切れていませんが、それまで北海道民が政治に強い関心を持っていたことは確かで、おそらく北海道には民主主義の素地があるのでしょう。なぜ投票率が下がったのかを考えることは、もう一度真の民主主義を取り戻す糸口になるんじゃないかと私は思っています。

ニールセン北村朋子さんの著書

『ロラン島のエコ・チャレンジ デンマーク発、100%自然エネルギーの島』

デンマークで4番目に大きな島、ロラン島。巨額の赤字を抱え「腐ったバナナ」と揶揄されたお荷物自治体がグリーン・エネルギー生産を転機に持続可能な地域へと姿を変え、「グリーン・バナナ」と呼ばれるまでのチャレンジを、美しい写真とともに綴ります。

著者:ニールセン北村朋子

発行:野草社

定価:1,600円+税

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