―ここ数年、イカやサンマの不漁など、北海道の水産物に変化がみられます。
おっしゃるとおり、イカやサンマだけではなく、サケも多いときは23万トン(2003年)を水揚げしたものの、ここ数年は6万トンを割り込んでいます。海水温の上昇なんかが要因といわれていますが、特に回遊魚への影響は大きいですね。逆にブリやホッケ、タラなどは多く捕れるようになりました。また今年は、過去に経験のない赤潮の発生でウニ、真ツブ系統が大量死する被害もありました。人間の思うとおりに行かないのが自然でして、水産業にとっては厳しい状況が続いています。
そうした中、日本の台所は輸入水産物に支えられている側面もあり、ここ20年の輸入金額は年間1.5~1.8兆円の規模で推移しています。私たちの会社も中央卸売市場と八軒に総収容5万4000トンの冷蔵庫を持っていまして、-60℃から+5℃まで、品目に応じた温度帯で管理できるようになっています。さて、冷蔵庫を冷やすのに欠かせないのが冷媒です。初期には冷媒にアンモニアが用いられていました。ですが、アンモニアには引火性や毒性があることから、無味無臭のフロンガスに転換していくこととなります。ところが2000年代に入ってフロンガスがオゾン層破壊や地球温暖化につながる問題が明らかになった。そこで私たちも中央卸売市場の冷蔵庫を「環境にやさしい」新しいアンモニア冷媒に切り替えたんですね。このようにある時点では「良い」とされたものが、ある時評価が変わって「悪い」ものになることもある。私たちは相当先を見据えて考えることが必要なんだと、この事例で学びました。
―冷媒の例にあるように、時代が変わる中で固定観念に縛られず、変化を厭わない姿勢が重要ということでしょうか。
その通りだと思います。例えば市場内で荷物の運搬に使われるモートラ車(ターレー)があります。従来はガソリンで動いていましたが、2002年頃からエネルギー消費効率の高い天然ガス車に切り替えました。環境・衛生面に配慮したもので、ガソリン車に比べて市場全体でCO2削減量が約2~3割となり、燃料コストは半分ほどになりました。ただしこれもベストというわけではありません。ゆくゆくは電動式へ切り替えていくことになろうかと思います。今後は市場でもIoTやAIの活用が進み、電力はますます欠かせないものになるでしょうね。
―脱炭素社会に向けた一連の取り組み以外にも、高橋水産ではSDGs達成への活動に取り組んでいると聞きます。
これは私たちも参加する札幌市中央卸売市場水産協議会魚食普及委員会の活動ではありますが、コープさっぽろと連携して2014年度より「魚の調理教室」を実施しています。背景には「魚離れ」があります。調理教室は丸魚を三枚におろして、調理し、食べるという構成で、残念ながら現在はコロナ禍で開催できていませんが、以前は大変好評をいただいておりました。一人でも多くの方に魚料理の楽しさを体験してもらい、日本食文化の良さを次世代につないでほしい。教室実施の裏にはそうした思いがあります。そして水産物の消費量が高まれば、産地の活性化につながり、地域の持続可能性にも貢献できるのではないかと考えています。
私の好きな言葉に司馬遼太郎さんの「道なき道」があります。道がないから行かないのではなく、道がないから行くのだ。そうした気概を示す言葉だと私は理解しています。「道なき道」の道は北海道を指すようでもあります。47都道府県の中で道が付くのは北海道だけですから。北海道は全国を上回るスピードで人口減少と高齢化が進んでいます。このことは地域の経済産業活動の縮小を招くと予想されています。「道がない」と思う人もいるかもしれません。でも、そうした中でも道内各地でワイナリーが増えるなど、未来に向かって歩みを進めている人がいます。水産業界も負けてはいられません。かつて先人が道なき大地を切り開いたように、北海道に生きる一人として、道なき道を行く気概を次の世代へ引き継いでいく役割があると、私は考えています。