SPECIAL もっとわかる、エネルギーのこと

挑人語録 「考える人になる」

#007 荻田 泰永(オギタ ヤスナガ)さん

カナダ北極圏やグリーンランド、北極海を中心に主に単独徒歩による冒険行を実施。2000年より2019年までの20年間に16回の北極行を経験し、北極圏各地をおよそ10,000km移動してきた。コープさっぽろは荻田泰永さんの冒険をサポートしています。
※現在(2020年7月1日~)トドック電力のチカホ広告に荻田さんが登場!

さまざまな分野のチャレンジャーに環境や未来についてお話を聞くこのコーナー。記念すべき1回目は、日本唯一の「北極冒険家」荻田泰永さんを迎え極地冒険で見聞きした地球環境の変化や、コープさっぽろと全道4動物園が共催する環境教育プログラム「ZOOキャンプ」について語っていただきました。

−−荻田さんが最初に北極を訪れてから20年がたちますが、温暖化の影響を感じることはありますか?

 

地球環境の変化は極地から出ると昔からいわれます。実際、衛星写真や科学的なデータをみれば、北極海の海氷面積が近年加速度的に減少していることが分かります。足下の氷が薄くなれば、当然氷の上を歩く冒険は直接的な影響を受けます。世界で初めて北極点に到達したとされるロバート・ピアリーの時代、つまり100年前と今とでは、当時の記録を読む限り、状況はまったく異なり、かつては問題なく通れた場所が今は通れない、そういうことはよくあります。情報収集のため、現地に住む先住民イヌイットから話を聞くこともあります。イヌイットの暮らしも近代化が進み、昔に比べてカリブーやアザラシの狩猟に行く機会は減ったそうですが、それでもなお狩猟に出る人たちはいます。そんな彼らから『先祖代々使ってきたルートが近頃は氷が張らなくて通れなくなった』といった話はたくさん耳にしました。

−−動物たちはどうですか?われらが「トドック」のモデル、ホッキョクグマとか?

これは正直、記事にはしにくいと思うけど、地球温暖化の象徴としてよく映像に使われるようなガリガリに痩せ細ったホッキョクグマは、実際のところ一度も見たことはないですね。これまでに何度もホッキョクグマと遭遇していますが、みんな丸々と太っていました(笑)。だからといってホッキョクグマの数が減っているという意見を否定するつもりはありません。全体としてみれば、個体数は減少傾向にあるのでしょう。ただ一方で、人間が狩猟に出なくなったことで頭数の増えている地域があるのも事実。大きな全体の前には、異なる無数の小さな現実があるということです。もちろん、動物たちに温暖化の影響がないわけではありません。北極圏の北の方にある集落で、それまで飛んでくることのなかった種類の渡り鳥を見かけるようになったという話を聞きました。また、イッカクなどの鯨類はエサとなる魚を追っかけて北上しますが、夏の氷が少なくなったことでかなり北の地域でも見られるようになったとも聞きます。

−−荻田さんは極地冒険の一方、小学生と一緒に日本各地で100マイル(約160km)を踏破する「100miles Adventure」などの体験活動に力を入れています。コープさっぽろと道内4つの動物園による「ZOOキャンプ」にも協力をいただいています。

「ZOOキャンプ」は札幌・旭川・釧路・帯広にある4つの動物園を舞台に、親子で冒険キャンプをする体験イベントです。普段は見ることのないバックヤードや夜の動物園など、いつもとは別の視点で動物園をとらえることで、物事にはいろんな側面があることを、体験を通して知ってもらうというテーマがあります。でもじつは裏テーマもあって…。その一つが「防災」です。

今年2月に行われた、真冬のおびひろZOOキャンプより。マイナス24℃の寒さの中、参加者全員がテント泊にチャレンジしました

−−防災ですか?

はい。2018年9月に北海道胆振東部地震が発生し、全道でブラックアウトが起きました。もし真冬の猛吹雪の日に同じことが起きたら、どうなっていたか。真冬の「ZOOキャンプ」では氷点下の屋外でキャンプをします。帯広でやったときはマイナス24℃までいったかな。なかなかいいでしょ(笑)。真冬に外で寝る、これを経験したことがあるかないかで、非常時になったとき、大きな差が現れます。何か起きたときにせめて自分の身を守れるか、それとも守れないのか。守れる人はプラス1、守れない人は0どころかマイナス1。自分の身が守れなければ誰かに守ってもらわなければいけません。この二つの間には果てしない開きがあるんです。真冬の「ZOOキャンプ」は自分の身を守る練習です。工夫する練習、自分の頭で考える練習です。真冬の屋外でテントを張って寝袋で寝る。北海道の人はそれが体験できる環境にあるのに、やる人はまずいないですよね。でも、『こういう感じなのか』と知ってるのと知らないのとでは大違いです。

いま、コロナの影響で世の中がやたらとピリピリしているように感じます。原因は何かといえば恐怖心でしょう。COVID-19という目に見えないモンスターに対する恐れです。いろいろな専門家がメディアに出てきては違うことを言います。ある人はマスクが大事だと言い、別の専門家はマスクには意味がないと言う。ある部分ではどちらも正解だろうし、どちらも正解じゃないかもしれない。このとき、自分の頭で考える習慣のある人は『この意見のこの側面は自分に当てはまり、ここは当てはまらないぞ』という目で見られる。ところが、自分の頭で考える習慣のない人はとにかく正解を求める。人に決めてもらった方が楽だから。それに慣れちゃっているからです。自分の行動指針や枠組みを誰かに決めてもらわないと不安で仕方がありません。でも、自分の頭で考えるって、当たり前のことですよね。その当たり前をみんなが実践できていたら、コロナでこんなにパニックになることはなかったはずです。そうならないよう、せめて自分で考える練習を日々やっておく必要がある。考える習慣を身につけておく必要があります。自分の頭で考えるとは、『他人は関係ない』という意味ではありません。むしろ逆。ちゃんと自立して物事を考える、主体的に物事を考えるとは、他者の存在を認め、尊重するところから生まれます。これを取り違えて『自分さえよければいい』という考え方になっちゃうと、世の中ギスギスしちゃいます。他者を思いやる想像力、やさしさがほしいなと思いますね。

−−そうした想像力を養うためにも経験は必要ですよね。

そうです。北極の冒険を通じて思うのは、人間は身体で感じ取る情報がいかに多いかということです。単独で極地の冒険をしていると五感が鋭くなっていくのが分かります。虫の知らせとか、腑に落ちないという言葉があるように、身体で感じる情報は生きる上でものすごく大切です。身体性と言い換えることもできます。知識と身体性、このふたつが備わっていないと人間おかしくなる。身体で感じるためには経験しかありません。身体性を伴う経験を積む、日常の向こう側にある広大なフィールドを経験することで、人間は知識ではカバーできない、身体性を養うことができます。子どもたちにはそれを伝えていきたいですね。

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